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西洋らしさを演出――著者・五十嵐太(いがらし・たろう)さん
本と人
五十嵐 太郎:著
春秋社
1,995 円
ISBN: 4393332695

 「結婚式教会」とは、信者がおらず結婚式のためだけに存在する建造物を指す著者の造語。これを切り口に現代日本の宗教観、建築観を分析した。

20070923_igarashi  教会など近現代の宗教建築とのかかわりは、天理教や大本教などにとっての建築の意味を探った博士論文にさかのぼる。その後、結婚式が全国一豪華と言われる東海地方の大学に勤務する機会を得、郊外に建ついくつもの巨大な「教会」に目を引かれた。

 先端のとがった大きな双塔やステンドグラス、色ガラスをはめ込んだ円形の窓といったヨーロッパの大聖堂を思わせるゴシック様式風の「教会」が多い。しかし、西洋のものに似てはいるものの、建築史家である著者の目には、それらのデザインが稚拙に映った。実際に足を運ぶと、「ウエディングドレスを美しく見せるために階段を異様に大きくしたり、正面から見ると巨大なのに奥行きはいやに短かったり。新鮮な驚きでした」。結婚情報誌をめくれば、建築についての記述に誤記が多く、過剰にイメージを膨らませた写真も目立つ。「結婚式教会を運営する側も利用者も、教会を劇的な演出のための舞台装置としてとらえている。求められているのは『西洋らしさ』だ」と推測する。

 結婚式教会が担う特定のイメージへのこだわりは、西洋の様式主義的な教会や現代日本の一般的なキリスト教会との比較からも浮かび上がってくる。明治期に西洋を模倣しながら作られた教会や、著名な建築家の手になる結婚式場として名の通った教会の例も挙げられ、現在のような結婚式教会の特徴がどのように成立したかが掘り下げられる。

 例えば、今日本にある本物の教会は、歴史的な様式にこだわらず箱形のモダニズム建築だったり、ビルの中に入居しているものも多い。東京カテドラル聖マリア大聖堂(丹下健三)のような有名建築も、多くの日本人が抱く典型的な教会の姿とは異なっている。

 信仰心が強ければ建築の形にあまりこだわらない。逆に信仰心がなくなるほどイメージやシンボルとしての建築が重要になる――現代の宗教建築や結婚式教会の研究を通じ、著者が到達した実感だ。「結婚式教会は、宗教観がゆるい日本だからこそ生まれたオリジナルの建築です」<文と写真・手塚さや香>

<毎日新聞 2007年9月23日>
「結婚式教会」の誕生
五十嵐 太郎:著
春秋社
1,995 円
ISBN: 4393332695
新編新宗教と巨大建築 (ちくま学芸文庫 イ 35-1)
五十嵐 太郎:著
筑摩書房
1,260 円
美しい都市・醜い都市―現代景観論 (中公新書ラクレ)
五十嵐 太郎:著
中央公論新社
798 円
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